2016年8月26日

大学出張授業⑩津田塾大学 学芸学部国際関係学科

Filed under: 授業・学習・進学 — 漆 @ 2:36 PM

大学出張授業の続きです。担当の住谷より報告します。

国際関係学を選択した4・5年生34名が、津田塾大学学芸学部国際関係学科の網谷龍介教授の「国際関係を学ぶってどんなこと?」を受講しました。

最初に一言、先生は「国際関係学って何ですか?」と。その瞬間、生徒たちはキョトン。
だいたいイメージするのが、国際関係=開発援助や国際協力、外国の政治や文化、領土争いなどかと。しかし、それを学ぶことが国際関係なのではなく、「国際関係という見方」から物事を考えることが国際関係学なのだと、おっしゃいました。生徒たちはますますキョトン。

先生は、「日本の伝統」というのは、外国人によって評価されたことによって初めて日本人がその価値に気づいて形成したものである、とおっしゃい、他とのつながりによって発見・再定義してその意味を見いだすことが国際関係という物の見方であると教えて下さいました。
ここでようやく、「なるほど」という顔になってくる生徒たち。

続けて、日本国憲法に先生は触れました。憲法の三大原則には「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重」があり、前文には「いづれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という国際協調主義を唱えた文言があります。民意に添って自分の国のことを自分たちで決めることと、政府同士の取り決めを増やして国際協調を進めること、相反するようですがどちらも望ましいものです。

では、この場合はどうでしょう。先生は国際結婚が破綻した際の子供の扱いについて定めている通称「ハーグ条約」を事例にあげました。この条約は、子供を片方の親が勝手に出身国へ連れ去った場合、もう片方の親の親権を侵害しているため、ただちに元の国に戻さねばならない、ということを規定した条約です。欧米では離婚したのちも双方の親が親権を持つことが多く、どちらかと暮らしていてもたびたびもう片方の親と面会したりすることは当たり前の権利となっています。1980年に採択され、2013年9月には90ヶ国が加盟しています。しかし、日本は2013年5月にようやく国会で承認し翌年4月から発効となりました。それまでの間、再三日本に対して批准を求める声が他国から集まりました。なぜ日本が批准をためらったか、それは日本の中で慣習化された「子供の面倒は母親がみる」ということから、日本では基本片方の親(多くは母親)が親権を持つことが多いのです。国際結婚が破綻する理由の多くが夫からの暴力や自国に暮らす優位な夫の立場などにあり、日本人の妻は命からがら子供を連れて日本に帰国することがたびたびあったのです。が、ハーグ条約に照らし合わせると、これは父親の親権を侵害するものであり、母親は誘拐をした、ということになるのです。実際2009年の「サボイ事件」では、子供を連れ帰ろうと日本に来たアメリカ人男性が未成年者略取容疑で日本の警察に逮捕され、逆にアメリカの裁判所は日本人妻に対して夫の権利侵害と言うことで610万ドルの賠償を命じました。

これをどうとらえるか?日本の慣習に重きをおくか、国際ルールの遵守に重きをおくか、こういった事例はそこかしこ至る所にあり、こういった状況を考えていくことが国際関係学なのだと教えて下さいました。つい最近のイギリスのEU離脱を巡る問題もまさにこれと同じ状況です。

生徒たちは新たな視点を得て、「目から鱗が落ちた」と感想を述べる人も。多角的な視点で物事を捉えることは、これからの世界に飛び立つ生徒たちには欠かせないことです。我々大人も肝に銘じなければと実感しました。網谷先生、ありがとうございました。

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