2016年10月8日

大学出張授業⑫東京農業大学農学部畜産学科

Filed under: 授業・学習・進学 — 漆 @ 12:11 PM

朝、玄関に立っているとマスクをしている生徒がめだちます。寒暖の差で体調管理が難しいようです。昼休みの職員室前は質問の生徒が増えてきました。もう中間テスト2週間前を切ったんですね。「文化祭で燃え尽きた~」といっていた生徒たちもぼちぼちエンジンがかかってきたようです。

マルチタスクの品女生、本当にいそがしいです。そういう私もマルチタスク。今日は9時から11時まで1年生野保護者の方向けに親子のコミュニケーションのワークショップをして、その後、11時半から3年生の保護者の方向けの講演会の打ち合わせをゲストの卒業生と。12時半から開始して、2時終了。2時15分から保護者会が始まり、そのあと、地方へ。という感じ。

それなのに、小学生の時からずっと切り替えが下手で先延ばしがクセ。なんとかならないものかと思っていたら、「進学の手引き」にユニークな方法を書いている生徒が。集中できる趣味のことを短時間やってその勢いで勉強時間に入るという方法。私は重要度の高い仕事からやる習慣で、気が重くて先延ばしにしがち。このやり方を試してみたら頭がはっきりして集中力があがります。しばらく実験してみるつもりです。

マルチタスクついでに、週末、コラムにチャレンジしてはどうでしょう?各クラスに案内を掲示しましたが、読売新聞の編集手帳のコラムニスト竹内政明氏がみなさんの書いたコラムの中から優秀作を選んで添削「読売 中高生新聞」に掲載されるというものです。テーマは「ら抜き言葉」広がる です。

大学教授出張授業のつづきです。担当の安藤よりの報告です。

東京農業大学農学部畜産学科 教授 農学博士 半沢 恵先生の大学出張授業の報告をさせて頂きます。
◎「動物生命科学の最前線」という題で授業が行われました。

安藤先生 安藤先生2 安藤先生3

その内容は、「ヒツジのスクレイピーという病気」についてのお話でした。

その病気は、1732年英国で発生し、1920年~50年に英国で大発生しました。
日本ではヒツジがあまり家畜として飼われていないので、生徒たちは、この病気についてはあまり知りませんでした。日本では、ウールのセーターやラム肉などからヒツジを連想できますが、身の回りには少ないです。テニスのラケットのガットにも使われていることにも生徒たちは知らなかったようです。この病気は、ヨーロッパ17ヶ国、米国、日本他29ヶ国で公式に確認されています。しかし、不思議なことに、オーストラリアとニュージー・ランドには発症していないのです。これには、生徒たちは興味を示していました。

その後、1985年に英国でヒツジの肉骨粉を供与したウシにBSEが発症しました。そのBSEとは狂牛病のことです。脳細胞が死滅して、スポンジのように穴だらけになり、足元がふらついて立っていられず、ヨタヨタと倒れ、やがて食事が摂ることができなくなってやせ細って苦悶の末に死に至る病気です。スクレイピーにかかったヒツジの肉骨粉が入っている飼料を食べたウシにBSEが発症したと考えられています。日本にも侵入してきて、世界中をパニックに陥れました。よくニュースでそのヨタヨタと倒れるウシの映像が流れました。
ここまでくると、生徒たちもその病気の様子が徐々にわかってきました。今はどうなっているんだろうと生徒は考えたはずです。現在は動物肉骨粉の飼料利用が禁止され世界でも発症は減少しています。日本でも2006年以降発症していません。

*このヒツジのスクレ―ピーの病気の研究で、ノーベル医学・生理学賞を受賞した人がいます。1997年に、スタンリー・B/プルジーナーという米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授に送られました。

*ブルジーナーはスクレイピーの病原体は、プリオンというタンパク質である。という
プリオン説を唱えました。
*このプリオンは、不死身な病原体で、これまでの生物学の知識がまるで通用しない、
まるで、SFのような生命体の登場はあらゆる分野の科学者の頭を抱えさせました。

その不死身な例をいくつか挙げます。

○この病原体を精製して追い詰めても、DNAやRNAは検出されず、核酸を破壊
する紫外線照射をしても感染力はなくなりませんでした。つまり、病原体は遺伝子を持っていないのに、タンパク質だけで自己増殖ができる、という生物学の常識に反した結論になった。
○通常の細菌やウイルスなら完全に死滅するはずの、240度での乾熱滅菌という操作でさえ感染力は消滅しませんでした。

○アルコールやフェノールなどの消毒薬、タンパク質を分解する消化酵素、さらにはどんなタンパク質でも変性させてしまうホルマリンで処理しても病原体は消えないのです。

*このプリオン説で狂牛病の謎が解けたとは言えません。まだ、解明されてないことがあります。

○異常プリオンがどのようにして、正常プリオンを変形させるのか、詳しい分子レベルでの機構は全く分かっていません。

○そもそも生体が何のためにプリオンタンパク質を作っているかも大きな謎です。何らかの役割があるはずですが、これも今のところ明らかになっていません。

○食事から取り入れられたプリオンがなぜ消化されないのか、普通大きな分子は入り込めない脳にどうやって到達するのか、正常プリオンは、全身にあるのになぜ脳だけが破壊されたのか、タンパクの寿命は数日しかないのになぜ発症まで20年もかかるのかなど、現代科学をもってしてこんなにもわけのわからないことがあっていいのかと思うくらい、いまだにプリオンの周りには謎だらけです。というわけで、プルジーナーのノーベル賞は少なくとも「なんだか中途半端なところで出してしまったな」という感は拭えないところです。謎の解明にはもう少し時間がかかるようです。

*生徒たちは、過去にノーベル賞を受賞した説も時代が進むにつれて、覆される可能性がること、そういうことが身の回りにかなり多くあると聞かされて、とても驚いていました。研究する対象には限りがなく、大発見につながることもよくあります。どうぞ大学に行って研究することを楽しみにしてください。と言われて、うなづいている生徒が多かったです。大学では、そこで行われている研究を代々受け継ぎ、そこにかかわった人たちが協力しその研究を育てていくものである。大学生もその役割を果たしています。と大学での大学生の様子をうかがって、かなりの生徒が大学で研究することに興味を持てたのではないでしょうか。