生徒企画の特別講座 「AIの未来を知り、これからのAIとの関わりを考える」
昨日は新任教員の研修、今日から教職員は新学期準備です。暖かくなってきて、入学式の日の天気も良さそうです。
生徒主催のAI特別講座の様子を担当の小藤から報告します。私も顔を出しましたが、生徒のネットワークでお招きした若い研究者や他校の生徒さんが主催していたので、生徒と年齢も近く、和気藹々の講座でした。
2月16日に特別講座「AIの未来を知り、これからのAIとの関わりを考える」を開講しました。講師として、全脳アーキテクチャ若手の会より、大澤正彦様、松森匠哉様、福田聡子様、岡井基紘様、橋下侑子様に本校にお越しいただき、講義とワークショップを実施していただきました。
まず始めに、アイスブレイクの活動として「マシュマロチャレンジ」に取り組みました。マシュマロを繋ぎとして竹ひごのタワーを一番高く建てたチームが勝ちという活動でしたが、各チーム少しでも高くタワーを建てるために、チーム内で相談し協力することで、お越しくださった外部からの受講者の方とも自然に打ち解けていました。
講義の部では、現役高校生の岡井様にイントロダクションとなる講演をしていただきました。岡井様が発表された中で、本講座の事前アンケートの結果が大変興味深いものでした。「AIと将来どのように関わっていくか」という質問に対して、将来AIが発達し過ぎると支配されたり仕事を奪われてしまうという理由から、約9割の品女生が「AIの進歩に何らかの制限をかけていくべき」と回答していました。
しかし、岡井様は「AIについて知らないから怖い」という意見を持つのではく、AIを理解することで見方を変え、高校生でもAIと関わりできることがあるというメッセージを発信されていました。
同年代で積極的にAIを研究されている岡井様の講演内容は、品女生に響くものだったと思います。次に、慶應義塾大学大学院で研究されている松森様に講義をしていただきました。主にAIの仕組みやAIを使ってどんなことができるかについてお話ししていただきました。その内容は、専門的で大学の講義レベルでしたが、具体的で分かりやすい例を用いて説明していただきました。
例えば、AIが様々な物を見分けることができることについて、ビッグデータから特徴量を抽出して学習し判別するという技術が使われていますが、リンゴと梨を見分けるには「赤い」「硬い」「丸い」などの特徴をAIが学んで見分けているんだよ、と平易な説明をしてくださいました。
このように、AIは大量の画像、音声、テキストデータを扱うことに優れているということを学びました。しかし、全ての人がAIを理解して関わっていくには難しさがあります。それに対して、福田様は東京大学大学院で、何でもこなしてしまうAIを搭載したロボットを作るのではなく、ロボットと人が関わることで多くの効果が得られる点に注目した「HAI (Human Agent Interaction)」を研究されています。
例えば、「ゴミを全て拾うロボット」を開発するのが現在の技術的に難しくても、ゴミを拾って欲しそうに人間に対して訴えかけてくる、親しみやすいロボットがいれば、人間がゴミを拾うという行動を誘発し、結果的に目的を達成できるといいます。このような人間との相互作用(Interaction)はAIのみでは解決できない問題への一つのアプローチになるそうです。
このような人間とAIロボットとの可能性を慶應義塾大学大学院で研究されている、大澤様から最後の講義をしていただきました。
大澤様は「ドラえもんを作りたい!!!!!」という子どもの頃からの夢を叶えるべく、その先駆けとなる「ミニドラ」の作成に取り組まれています。ミニドラはドラえもんと違い言葉を話すことができるロボットではありませんが、人の言葉を理解し、適切な応答や反応をすることができます。この発想をもとに、まるで人の言葉を完全に理解してコミュニケーションをとることができていると感じさせるミニドラを製作され、言葉を話せなくても「ずっと一緒に居られる存在」にAIロボットはなり得るという可能性を語っていただきました。
これらの講義を踏まえ、大澤様たちが作成されたミニドラをより親しみ深いロボットとして完成に近づけるために、ワークショップとしてミニドラをPRする試みを行いました。
生徒たちはグループに分かれ、ミニドラたちと普段の生活でどのように関わっていくことができるか考え、PRし合いました。最も優秀なPRをしたグループはミニドラとの学校生活を映像にまとめ、私たちの生活に欠かせない存在になるという展望を示しました。
以上のように、充実した特別講座を終え、生徒たちのAIに対する理解と興味はより一層深くなりました。このような貴重な機会を提供してくださった全脳アーキテクチャの皆様に御礼申し上げます。
本講座の学びを更に深めるために、Day2として、3月17日(日)には大澤様、松森様が所属される慶應義塾大学今井研究室見学ツアーを訪問しました。テーマは、「身近な課題を見つけて、AIを活用して解決する」ことです。
まず慶応義塾大学今井研究室に所属する修士2年の澤田さんは、AmazonやGoogleの開発しているスマートスピーカー対して、話しかけづらさや人々が飽きてしまうという課題発見が研究の出発点だったそうです。この課題を解決するため、自分の好きなものやお気に入りものをスマートスピーカーにしてしまう研究をされています。 この研究によって、IoT (Internet of Things: モノがインターネットのように繋がって情報交換する仕組み)が普及していくかもしれません。
このようなAI技術を活用して製品化する観点から、今井研究室所属学部4年の榎波さんにAIを活用したプロダクトデザインについて発表していただきました。AIを活用するためには「もにょり」(言葉にしにくいがどうにも歯がゆい感覚)を見つけ、それを分解して製品に落とし込むことが重要だそうです。 実際に、今井研究室はtekut!という「音楽を聞くだけで画面を見ずに時間通りに目的地に到着する」製品を開発され、様々な賞を受賞されているそうです。
博士3年の岨野さんは、肩乗りで一緒に散歩してくれる製品を開発して、実用化に向けて研究されています。AIの画像認識機能を用いて、散歩している場所にあった話題を提供してくれるという製品です。 これまでの既存の技術単体ではできないことを組み合わせることによって、製品開発や課題解決に取り組むことが重要だそうです。
基本的に現在一般的なAIは、人間が与えた答えをインプットして出力するという形式になっています。それに対して、今井研究室修士1年の姉尾さんは、「教えてもらわなくてもできるAI」を研究されています。 強化学習という技術を用いれば、外部から目標をもらわなくても、AIが自分で思考・学習することで、人間の代わりに仕事をやってくれるという将来が実現するかもしれません。
以上の講義をふまえ、生徒たちはAIを活用することで身近な課題をどのように解決できるかディスカッションに取り組みました。グループでディスカッションを行った後、各グループでアイディアをまとめて具体的な解決方法や製品を発表しました。
買い物の際にAIがユーザーの嗜好を学習してオススメの店舗や商品を紹介してくれるアプリを提案するグループや、AIの学習能力を使って服選びの手間を省くという提案をしたグループもありました。また、都心部の混雑を課題と考え、交通機関の渋滞情報から的確な経路を提案することにより、混雑や渋滞の緩和をねらう仕組みを提案するグループもありました。これまでの特別講座を通して、生徒たちはしっかりとAIのできることや得意なことを学び、それを活用するためのアイディアに落とし込んでいました。HAI*を活用するという異なる視点からディスカッションしていたグループは、発話内容から人間の感情を読み取り、ユーザーの感情と同期して花の開き具合が変化するというインターフェイスを紹介しました。これにより自分の感情を客観的にとらえて冷静になったり、前向きになれるというユニークな発想でした。
*Human Agent Interaction (HAI): AIが全ての課題解決を遂行するのではなく、人間との相互作用を促すことによって課題解決を目指す弱いAI
これまでの特別講座Day1・2を通して、生徒たちはAIについての理解を深め、それぞれ課題解決の方法として活用することを考えることができるようになりました。今後加速するというAI社会を生きていく上で、大切なことを学ぶことができた二日間でした。