⑭教科イチ押し【森美術館】
教科イチオシの続きです。担当の中村より以下報告です。
教科イチオシ見学会の芸術科イチオシ施設として、森美術館に訪問しました。中等部1年生12名が参加しました。
今回の展覧会は「カタストロフと美術のちから展」です。日常をゆるがす惨事から個人的な悲劇まで…絶えず人を襲うカタストロフ(大惨事)を表現した現代美術のアーティスト40組の作品を鑑賞しました。また、美術はどのようにカタストロフと対峙し、どのような役割を果たすことができるのか、鑑賞を通して「美術のちから」の可能性について考えました。
インパクトのある展覧会入り口。
「それでも人は立ち向かう。Yet Still, We Rise.」が印象的でした。お世話になる森美術館ラーニング担当スタッフの方に挨拶をしました。
入り口入ってすぐ、冒頭を飾る作品。地震?爆弾?戦争?…
作者は何も語っていないため、自由に想像ができます。作品の一部にはパブロ・ピカソの言葉「すべての創造は、破壊から始まる」が描かれていました。
作家名/作品名:トーマス・ヒルシュホーン《崩落》
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
作家名/作品名:畠山直哉「陸前高田2011」シリーズ
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
東日本大震災発生から9日後に発足した緊急支援チーム「ARTS for HOPE」の活動の一部を紹介した展示。
「アートで、思いつく限りの可能性に挑んでみる。壊れた被災地にアートのシャワーを降らせたらその向こうに、虹は射すだろうか?」
作家名/作品名:高橋雅子(ARTS for HOPE)《アートで何ができるかではなく、アートで何をするかである》
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
被災したカフェに「希望の星」が浮かび上がるプロジェクトの再現。
集合写真を撮りました。
作家名/作品名:ジョルジュ・ルース《アートプロジェクトin東京》
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
作家名/作品名:オノ・ヨーコ《色を加えるペインティング(難民船)》
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
生徒たちは森美術館のスタッフの方に話しかけていただきながら、さまざまな視点を学べたようです。
自由鑑賞の時間では、改めてじっくり観たい作品を観にいったり、写真を撮ったり、参加型の作品に参加したりと充実した時間を過ごしていました。
見学後、生徒が書いたワークシートより、いくつかご紹介します。
Q 印象に残った作家名・作品名と、それらについて考えたこと
・(池田学《予兆》に対して)ただ一見波のように見えてもその中に小さな死や悲しみがえがかれていて、心にのこる作品だと思った。ガイコツやいろいろな生き物、生きている人、いろいろな物が小さくえがかれできている作品だと思う。波は小さな悲劇がつみかさなり大きな波となって私たちにおそいかかってくる様子をえがいているのだろうと感じた。
・(同)津波にいろいろな物がのみこまれていく様子がとてもきれいに描かれていました。スタッフの方が教えてくれたことで、東日本大震災の前にかかれていたものだと知り、とてもぞっとしました。ただ物だけがのみこまれていくのではなく、動物や人もいたので、津波が来てたくさんの人々の命がうばわれることを作家は予想していたのではないかと思います。
・(同)今世の中で起こっている問題の一瞬を切りとって最大限つめこんだ感じだった。作品の右側には大きな波があったが、その左側の空白で何もないスペースが一番こわかった。これから先の未来はどうなるか分からないけれど、少なからず人の手で変えていく(良い方に)ことができるということを表していると思った。
・(平川恒太《ブラックカラータイマー》に対して)福島第一原発事故で有害な物質を片付けている人々が時計にえがかれていましたが、私は時計の音が生きられる残りの時間をあらわしていると思いました。その理由は、時計がとまったときがあるとして、それは死をあらわしていると考えたからです。
・(ジョルジュ・ルース《星は空に輝いて》に対して)私たちは普通とりこわされる建物で何かを作ろうなどと思ったことはないけれど、アーティストの人たちはこういう物に目をつけて作品を作っているのだと知り、おどろきました。写真にとるとくっきりと星が浮かびでていて立体絵のようでした。
Q 各作品や展覧会全体に関する他の生徒の発言で印象に残ったことと、その理由
・(池田学《予兆》のところで)「この波が津波っぽい・・・」→その前まで見ていた「自然が起こしたカタストロフ」とつながった感じがしたから。
Q 展覧会全体をとおして、「カタストロフ」について考えたこと
・大きな打撃があるからこそ、その反動で再生し、何かを生み出し、カタストロフによってくずされる。その逆境から立ち直るために、人はさらに他の何かを生み出す。そのくり返しなのかな、と思った。
Q 展覧会全体をとおして「美術のちから」について考えたこと
・美術は直接カタストロフにはたらきかけることはできないと思う。でも、カタストロフに今まで興味もわかなかった人に、作者が自分の考えを「美術」という抽象的なものに置きかえて表現することで、考えさせたりメッセージを語りかけたりすることができる!
・今まで、絵は1つのことを伝えていると思っていたが、人によって感じ方や受け取り方がちがうことがわかり、美術はとても面白いと思った。また、想像力を豊かにしてくれると思った。
・美術館にかざられていた作品は、はっきりと「地震」など、何のことかあらわしていなかったので、個人個人でその作品から思うことは違うと思いました。また、今回の学習を通して、ただ絵をかいているのではなく、伝えたい事などをあらわすためにかいていることを知り、作品から作家が伝えたかったと思うことを自分なりに考えることができました。絵を見て楽しむ他に、アーティスト達が作品をつくるまでのエピソードがとてもおもしろく、美術館の楽しみ方を知れた気がします。
Q 美術館という場所について、今回の見学会で得た印象
・前まではただ見るだけ、という感じだったのですが、今は、見て、感じとる、考える、という印象です。
・ただながめるだけではなくその作品は何を表現しているのかや、作者が何を伝えたかったのかを考えながら見ていくと面白い。さまざまな視点からみることでいろいろな発見があって楽しい。
Q 作品を見て、言葉で表現するということについて
・私はおもしろかったです。なぜなら、言葉で表現しようとすることによって、作品について深く考えたりできるから。
Q 今回の展覧会「カタストロフと美術のちから展」の感想
・オノ・ヨーコさんの《色を加えるペインティング(難民船)》では自分もクレヨンを使って、かくことができたので、とても楽しかったです。
・友達の意見と、自分の意見を比べてみたりして、さまざまな考えがあることが面白かったです。
・一見「カタストロフ」と「美術」は関係なさそうに見えますが、カタストロフを美術という形で表現することで、他者に伝えることができたり、考えてもらえたりすると分かり、感動しました!