2014/8/21 木曜日

10:大学出張授業(東京女子大学現代教養学部現代教養・人間科学・言語科学学科)

カテゴリー: 授業・学習・進学 — 漆 @ 16:00:12

大学出張授業、「東京女子大学現代教養学部現代教養・人間科学・言語科学学科」を担当の黒沢からご報告します。

 東京女子大学 現代教養学部 人間科学科言語科学専攻 の石井恵里子教授の出張授業を担当しました。テーマは『異文化コミュニケーション能力を育てることばの教育』でした。
石井先生のご専門は日本語教育ということで、今回の講義は、日本語のネイティブではない人たちが、日本語を理解する上で難しいこと、そういう人たちとのコミュニケーションにおいてどういう場面で「ズレ」が生じるのか、ということを中心に、異文化コミュニケーション能力の育て方についてお話をして下さいました。

 授業の冒頭に、先生が、黒板に「彼女は金髪で目が青い」という文を書き、「この文章を絵で表現してみてください」と生徒たちに指示を出しました。おもしろいことに、出来上がった絵を見てみると、共通した特徴が見られました:
・年齢は10代~20代
・ロングヘア
・ぱっちりした目(一重まぶたではなく)
・鼻が高い

なぜ生徒たちの絵にこのような共通点が見られたのでしょうか?それは、言語の情報処理には、言語的分析(ボトムアップ処理)と、文脈情報や既有知識からの推測(トップダウン処理)の両方が必要で、人が言葉を理解するのには自分の「経験」というものが多いに手助けになっている、ということです。ですから、「金髪」「目が青い」という情報を聞くだけで、生徒たちは何となく、「白人の外国人」(ジブリの映画『思い出のマーニー』の公開間近だったからでしょうか?)を思い浮かべたのでしょう(日本人でも金髪やカラーコンタクトをした青い目はありますが)。そのような限られた情報でも、文字以上に伝わる事柄があることの例でした。

 例えば、よくデパートの店員さんの「ご自宅用ですか?」という日本語も、ノンネイティブの人には、あるいは、海外生活の長い日本人にさえにも理解が難しいようです。「ご自宅用」を文字通りに解釈すれば、「自宅で使用するもの」ですが、デパートの店員の「ご自宅用」とは、「自分用」すなわち「プレゼントですか、プレゼントではないですか?」ということを聞いているのです。これは、日本の文化的知識や経験が必要になるということになります。
 
石井先生もおっしゃっていましたが、このボトムアップ(「正しさ」)+トップダウン(「適切さ」)の情報処理は英語学習にも言えることで、学校の英語教育の中では、どうしても「正しさ」の指導に焦点が行く(語彙や文法に集中し、運用までには至らない)が、その知識だけだと、異文化コミュニケーションの実践においてはかなりの「ズレ」が生じてしまいます。
 
また言語情報処理の他に、社会言語行動や社会文化行動の違いにも触れて、様々な事柄における異文化コミュニケーションの難点を紹介して下さいました。

例えば、日本と中国では、夕食をごちそうしてもらった際のお礼の言うタイミングについてズレがあるとのことです。日本人は、ごちそうになった当日だけでなく、後日、その人に会った際(翌日、3日後、一週間後、あるいは半年後だったとしても)にもお礼を言うのが普通。しかし、中国では、ごちそうになった当日には感謝の気持ちを表現するが、後日に会った際に再度お礼を言うことはしないそうです。「またごちそうして!」ととられてしまうことを避けるためだそうです。

このズレが原因で関係が壊れてしまった日本人と中国人の実例を紹介しながら、以下に、文化圏の異なる人とのコミュニケーションが難しいか、を説明し、同時に、異文化圏の人たちとのコミュニケーションをとるために必要な文化的、社会的知識の大切さを教えてくださいました。
 文化圏の「ズレ」というものを認識する大切さ、に加えて「相手を理解しようとする努力」も、異文化コミュニケーションや外国語の学習において大事である、ということでした。英語科の教員としても大変勉強になる講義でした。生徒たちも興味深げに先生のお話に耳を傾けておりました。
 
~以下、生徒からの感想より~
■異文化コミュニケーションについて、どのような文化や行動ルールがあって私たちと違う行動を取るのか、ということに興味をもった。理解するための努力や発見ができる人になりたい。
■異文化コミュニケーションのお話がすごくおもしろかったです。将来、外国人の方と仕事やプライベートで接する際、コミュニケーションを円滑にするために文化の理解ができる人になりたいです。
■たくさん、解釈のズレの具体例を出してくださり、わかりやすく、おもしろかったです。
■文化によって言葉の理解の仕方が変わってくるのがおもしろいと思いました。
■外国人と関わり、日本語の不思議なことをもっと知りたいです。
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生徒たちにとっても大変有意義な勉強ができたようです。

*本校でもお世話になった岡村進さんの記事が日経ビジネスオンライン掲載されました。