2012/10/20 土曜日

国語科特別講座 〈早稲田大学文学部 中島国彦先生〉

カテゴリー: お知らせ,授業・学習・進学,早稲田大学 — 漆 @ 17:40:23

早稲田大学文学部 中島国彦先生による特別講座のご紹介です。

「『正解』を疑う心」「遅読」心に響く言葉がいろいろとあります。

授業で扱った教材をこうして深めていくことで、世界が広がり、大学で学ぶ学問分野への興味も深まりますね。

国語科の大久保からの報告です。

早稲田大学文学部より、中島国彦教授にお越しいただきました。授業で扱った夏目漱石の『坊っちゃん』『夢十夜』を中心として、小説を読む面白さについてご講義いただきました。1年生27名が参加しました。
「文章を読む上で必要なのは、『正解』を疑う心なんです」
こんなことを仰る中島先生に、生徒たちはいきなり驚かされた様子でした。
大学では、中高で「正解」と言われていたものを疑う心が必要であり、むしろ、そこに正解はないのだそうです。

続く「遅読」についてのお話では、沢山の本を読むのか、一冊をじっくり時間をかけて読むのか、など、本を読むのにはいろいろな形があり、単に沢山の本を読めばいいわけではない、ということを、実例を交えて丁寧に教えていただきました。灘校ではかつて、国語の授業で、中勘助の『銀の匙』を三年間かけて読ませたそうです。時間をかけることで、速く読むときとは違う部分に気がつくことができると、中島先生は仰います。
たとえば、『坊っちゃん』冒頭のテキスト表記について。「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る」という有名な書き出しですが、この一文、よく見るとひとつも読点がないのです。『坊っちゃん』は、全体を通してみても、読点の少ない小説だそうです。この、普段気にしないような読点の有無が、実はとても重要なのです。なぜならそれは『坊っちゃん』の語り手の問題に関わってくるからです。

小説を読む上で非常に重要な語り手ですが、『坊っちゃん』の語り手はいったい誰なのでしょうか。坊っちゃんの話したことを誰かが書いているのか、それとも坊っちゃん自身が書いているのか。坊っちゃんの語りだとすれば、江戸っ子でパワーのある坊っちゃんですから、きっと話し方も勢いのある早口なのでしょう。だから、あえて読点をなくすことで、坊っちゃんの語りの勢いがそのまま文章に表れている、と考えることができます。また、漱石は『坊っちゃん』を一週間で書き上げたらしく、その書くスピードに引っ張られている、という見方もできるそうです。と、このようにテンポの良い語り口の『坊っちゃん』ですが、読むのには時間をかけて、いろいろなことに気づいて欲しい、ということでした。

「あたりまえのことに気が付く、これが大事なことなんだ」
これは、『<銀の匙>の国語授業』(岩波ジュニア新書)にある、橋本武氏の言葉だそうです。国語の授業では、ただ受け身でいるのではなく、自分も参加し、一緒に作業し、楽しむことが重要で、特に求められるのは「遊ぶつもりで読む」ということだそうです。
以前、灘校での授業で橋本先生が、「まなぶとあそぶに共通するものは何ですか」ときいたところ、生徒の一人が「<あそぶ>も<まなぶ>も仮名で三文字です。どちらにも<ぶ>がついています」と答えたそうです。この「当たり前のこと」ひとつひとつを、丁寧にみていくことが必要なのだそうです。
たとえば、『夢十夜』を読んだ生徒の感想の中で、「夜によって「こんな夢を見た」という最初の一節が、ある時とない時がありました」というものがありました。この「こんな夢を見た」の有無も大切な発見です。理由は色々考えられますが(連載だから後半は省略されたため、後半の夜は具体的で現実に近いため、等々……)、正解はありません。漱石自身にさえ、理由は分かっていないのかもしれません。
東山魁夷が、自身の描いた空飛ぶ馬の絵について、子供に「どうしてこの馬は飛んでいるの?」と聞かれたとき、魁夷は「何で飛んでるのか、僕にもわからないんだよ」と答えたそうです。作者には全て理由が分かっているのかというと、そんなことはない、ということです。
「こう思う」を不安に思わないでください、と中島先生は仰います。
表現すること、人に伝えることが、何よりも大切で、そして伝えるためには、一度言葉にする必要があります。言葉にするためには、いろいろなことを考えなくてはいけません。たとえば『夢十夜』の感想なら、「恐怖を抱きました」と書いている人が多かったけれど、ではその感情はほんとうに「恐怖」であっていますか。それはどんな「恐怖」なのですか。なぜ「恐怖」を感じるのですか。このように、深く考えていくことが重要で、そのうえで重要なのはやはり言葉なのです。
生徒たちは、今まで抱いていた「読書」や「授業」のイメージを払拭するお話に、一生懸命メモをとりつつ、耳を傾けていました。

質疑応答では、大学での授業の様子や、「国語が苦手なんですけどどうしたらいいですか……」などという質問がありました。講演会の最後には、フラワーアレンジメント部の生徒から、プリザーブドフラワーの贈呈が。また、講演会終了後、中島先生のもとには、サインを求める生徒たちの列ができていました。
生徒たちにとって、将来につながるとても意義深い時間となりました。中島先生、貴重なご講義をありがとうございました。

 

公益財団法人スペシャルオリンピックス日本が主催するチャリティイベントの締め切り間際になりましたので再度ご案内します。
スペシャルオリンピックスは知的障害のある人にスポーツを提供し社会参加を応援する国際的なスポーツ組織です。
私も評議員としてお手伝いしています。
本校でも有森裕子さんに朝礼でこのスペシャルオリンピックスのお話をしていただき、生徒たちがアスリートと支援者に送るペアのミサンガづくりに協力しました。
今回は、有森さんと 走るイベントです。金哲彦さんも指導してくださいます。
夜の時間帯ですので、保護者、卒業生の皆さん、是非、ご参加ください。 私も参加します。
「第2回エールランin国立競技場」
日時:2012年10月29日(月) 19:00~21:30 (受付:18:00~ )
場所:国立競技場 (東京都新宿区霞ヶ丘町10番2号)
申し込み・詳細はこちら