理事長とのお別れ
2月2日、理事長が胆管癌のため永眠しました。 昭和33年に当校の前身、品川中学校・品川高等学校に奉職し、長く主事として校長のサポートを勤め、昭和61年に校長、平成7年に理事長となり、一貫して女子教育の道を歩んできました。
その間、本校にも様々な困難な時期がありました。しかし、どんなときも生徒第一主義で、口癖は
「生徒が主役」
「えくぼ探し」
「一人一人に光をあてる」 でした。
私が小学校の頃、本校の経営状況は厳しく、毎晩深夜まで対応しなければならないようなことがあり、それが何年間も続きました。大きな問題を抱えている時に限っていろいろな事が起きるものです。そんなある日、たまたまバレー部の顧問が体調を崩してしまい、その代わりまで引き受けて、日曜に一人で学校へ行きネットを張って球出しの練習をしていました。私はボール拾いを手伝いながら、本当に生徒が好きなんだなぁと感じたものです。
宿泊行事のすべての引率をしていましたが、海浜生活があったころは、一ヶ月、学校の海の家で生徒と過ごし、帰宅時には別人のように真っ黒になって飼い犬に吠えられていました。毎年この時期になる庭の桃を食べられないので、絵に描いて送ったこともありました。海の家では掃除から水泳指導までを引き受けて、スイカ割りのあと、残ったスイカの白い部分を捨てずに集めて浅漬けを作り、みんなに振る舞ったりしていました。お膳を拭いているときに、「校長なのにそこまで細かい仕事をしなくても・・・」と言うと、「仕事は与えられたものだと思うから全く苦にならないんだ」と笑っていました。
病気らしい病気はしたことがありませんでしたが、胃がんになって入院したとき、病院選びは学校に一番近いところ、退院は卒業式に間に合うようにと常に学校を基準にすべてを決めていました。病室にまで生徒の顔写真を持ち込み、この子はどうしてると、確認をしていました。
そのあと入院したのは、結核の疑いがあると診断されたときでした。卒業式直前でしたので、私が急遽、式を代理で執り行うことになりました。結局、陰性であることが分かったのですが、運のいいことに、そのときの検査で名医に出会い、初期の食道癌が見つかりました。その後、その先生を主治医として、いくつかの消化器系の癌を見つけてはごく初期で取り切って寿命を延ばすことができました。先生からはこれだけ多くの癌から生還し、健康で仕事を続けている患者は例がないと驚かれました。
校長引退を決めたのは、中等部の遠足の日でした。高尾山に行ったのですが、「息が切れて生徒と一緒に頂上まで登れなかった、常に生徒と行動を共にする、それが自分のポリシーだから」と言われ、突然のことで全く自信のなかった私も、次を引き受けざるを得ませんでした。
校長を交代するとき言われた言葉は二つです。
「これまで通り、生徒や卒業生、教職員、学校に関わる人たちを大切にしてほしい」
「いろいろなことは起きるものだと思っておきなさい」
その後は、報告相談を受ける以外、自分から口は出さないと決め、毎朝、登校する生徒たちの様子を玄関で見守っていました。昨年、病気が分かってからも、「苦しい日はつい、休みたくなるが、一度楽な方を選んでしまうと戻れなくなるから」と、歩いて学校に通っていました。だんたんと腰の痛みがひどくなり、歩くことが難しくなりました。入院してから、骨転移の圧迫骨折が三カ所もあったことが分かり、医者から気力で立っていたのでしょうと言われました。
入院期間は、2ヶ月少し。それまでは、自宅から病院に通い、調子のいい日は学校に寄ることもできました。入院後も教職員や卒業生が見舞いに来ると、会話が止まらず、しばらく会っていなかった親しい人たちにも会うことができました。年末年始は家に戻り、晩酌もして故郷の佐賀から取り寄せた好物を食べ、孫の作ったおせちを楽しみました。最後に学校に来られたのは1月3日、近所の方々が学校に集まって駅伝を応援する会でした。自分の足で立って、挨拶もし、周りの方々と談笑していました。「この調子だったらあと一年くらい生きられるかな?入試の日は激励に来たいな」と言っていました。
私達も淡い期待を描きましたが、1月後半から急に体力が落ち出しました。痛み止めを強くすると意識が薄れてしまうので、家族には葛藤がありましたが、本人が苦しむことはほとんんどありませんでした。入試の日、病院から連絡があり、私が駆けつけたときは眠るように旅だった数分後でした。病院から家へ帰る途中、「入試の激励に行きたい」と言っていたことを思いだし、しばらく学校の前に車を止め、人生をかけて守ってきた品川女子学院との別れを惜しみました。
「品川ファミリー」とは理事長が言い出した言葉です。今後も故人の遺志を引き継いで、生徒が主役の学校として、人の役に立つことを自分の喜びとするような女性を育てて行きたいと思っています。理事長を支えてくださった品川ファミリーの皆様、これまでありがとうございました。そして、これからも品川女子学院をよろしくお願いします。
葬儀につきましては、大学入試、修学旅行、卒業式のあるこの時期、なるべく生徒の学校生活に影響が出ないように配慮してほしいという本人の意向を汲み、学校葬は行わず、当校と私共の家との合同葬として執り行うことにしました。在校生とのお別れの時間は、2月8日(水)の朝礼時に作る予定です。 葬儀の詳細は、当校ホームページに載せました。