⑪大学出張授業(学習院大学・文学)
担当の大久保からの報告です。
学習院大学文学部哲学科 佐野みどり教授
テーマ「ことばとイメージ」縄文土器、興福寺阿修羅像、源氏物語絵巻、ジャクソン・ポロックの抽象画――このような美術作品を見たとき、私たちはそのどれにも魅力を感じます。造形そのものがすてきに見える。そこに、なぜ?やどうして?はありません。こんな話題から、講義はスタートしました。
「ことばとイメージ」をテーマに、中近世の日本美術作品を例に取りながら、作品の魅力を探ってゆくというのが、今回の講義の内容です。まずはじめに、作品の時代・ジャンル・テーマ・背景など全てを扱うという美術史の観点から、芸術作品を鑑賞する際のポイントを三つ教えて頂きました。一つ目は分類的思考、二つ目は個々の作品の構造(フォーマリズム)分析、そして三つ目はイメージの解読。
特に今回は、雪舟の「秋冬山水図」を例に、フォーマリズム分析を実践して頂きました。まずは、構図に注意するということ。続いて、対比を見つけること。中でも重要なのは、絵の重心は何処にあるのかということだそうです。「秋冬山水図」の、手前から奥に向かう構図や、秋は水平に、冬は垂直に二分割できること、そして人物を描くことで絵画全体がより立体的に見えることなど、具体的に教えて頂きました。
生徒たちも、芸術作品を鑑賞する際の指標が得られたのではないでしょうか。次に、ことばとイメージの関連性についてです。室町時代から流行した、文字や絵画に意味を隠しておき、それを当てさせるようにした「判じ物」を、何点か見せて頂きました。そこに描かれているのは、風流などとは関係なく、純粋に音をイメージさせるものであり、今までの絵画作品とはまた違う世界が見られました。
また、絵のイメージが言葉に置き換えられている字音絵や、文字を組み合わせて絵を作った文字絵を実際に見せて頂きました。現代の顔文字に通じる文字絵は、すでに平安時代には流行していたそうです。判じ物や歌絵などを初めて目にした生徒も多い様子で、非常に貴重な経験となったのではないでしょうか。ついで、言語遊戯の歌として、折句や回文、冠歌、沓冠、また、意味世界が絵によって表現されている歌絵などについてもお話をいただきました。有名な折句の一つに、在原業平の「唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばるきぬる旅をしぞ思ふ」という歌があります。一見すると気づきませんが、頭文字だけをとってみると……「かきつばた」が読み込まれています。このように、歌や文章の中に別の意味を持つ言葉を読み込むことを、折句というわけです。また、回文についてのお話の際には、生徒も知っている回文の例を挙げたりなどして、積極的に楽しんでいる様子でした。
文字と絵は、字音絵や歌絵などの例を見ても明らかなように、それぞれが補完し合い、お互いにイメージを作り出しているのだということが、今回の講義を通して実感できたのではないでしょうか。また、日本美術と言語との関連性や奥深さに、目を向けるきっかけも得られたことと思います。
佐野先生、お忙しい中、本校生徒のために貴重なご講義をありがとうございました。